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事件概要
今回の事件はいつものように不穏なものではありません。
竹富島で一部を飲食店として賃貸していた物件が競売されました。
竹富島は全体が重要伝統的建造物群保存地区として選定されており、非常に街並みが美しいです。
いつも「ゴミ屋敷」とか「事故物件」といった殺伐とした事件ばかりを見ているので、競売資料の下手くそな写真でも、青空、白砂、赤瓦、石積の美しい色のコントラストを見て、思わず感動してしまいました。
こんなところに移住してのんびり暮らせたら幸せだろうな〜😇
などと暢気に考えていましたが、資料を読んでいて「重要伝統的建造物群保存群地区」という見慣れない言葉が気になりました。
最初は外観の変更に許可が必要なのかー、くらいに考えていましたが、調べてみると、もう少し面白いことがわかってきました。
重要伝統的建造物群保存群地区とは?
文化庁が定めており、全国で118地区が対象となっています。
重要伝統的建造物群保存地区選定基準(昭和50年11月20日文部省告示第157号)
伝統的建造物群保存地区を形成している区域のうち次の各号の一に該当するもの
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/judenken_ichiran.html
1. 伝統的建造物群が全体として意匠的に優秀なもの
2. 伝統的建造物群及び地割がよく旧態を保持しているもの
4. 伝統的建造物群及びその周囲の環境が地域的特色を顕著に示しているもの
このような基準で選定され、
市町村の保存・活用の取組みに対し,文化庁や都道府県教育委員会は指導・助言を行い,また,市町村が行う修理・修景事業,防災設備の設置事業,案内板の設置事業等に対して補助し,税制優遇措置を設ける等の支援を行っています。
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/judenken_ichiran.html
ということです。
竹富町竹富島は1987年4月28日に選定されています。
角館の武家屋敷、金沢の茶屋町、京都の祇園新橋など、観光スポットになっているところも多いね
竹富島の特徴としては、
竹富町竹富島伝統的建造物群保存地区 は,島の中央に位置する3つの集落からなり,白砂の道とグック(石積),屋敷林に 囲まれた屋敷に分棟形式の赤瓦屋根の 民家が立ち並ぶ昔ながらの農村集落景観を残している。
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/pdf/r1392257_117.pdf
と記載されています。
また、竹富島では、竹富島憲章なるものを定めており、これが保存地区に選定されたことにも大きく影響しているように感じました。
竹富島憲章
1. 「売らない」:島の土地や家などを島外の者に売ったり、無秩序に貸したりしない。
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/hozonchiku/pdf/r1392257_117.pdf
2. 「汚さない」:海や浜辺、集落など島全体を汚さない。また、汚させない。
3. 「乱さない」:集落内、道路、海岸などの美観を、広告、看板、その他のもので乱さない。また、島の風紀を乱させない。
4. 「壊さない」:独特の農村集落景観、美しい自然環境を壊さない。また、壊させない。
5. 「活かす」:伝統的祭事行事を、島民の精神的支柱として、民俗芸能、地場産業を活かし、島の振興を図る。
なるほど、住民たちが公民館のような社会教育施設を活用して自治の精神でこのような憲章をつくるというのは、都会に住んでいるとあまりピンとこないかもしれません。
地方自治が喧伝される現代日本において、学ぶべきケースなのではないかと感じました。
と、まぁ、ここまで資料を読んできたところで、ふと思いました。
ということは、この物件が競売され、他人の手に渡るということは竹富島にとっては非常に珍しいケースなのでは??
竹富島憲章に照らし合わせると、このような物件を競売していいのか、という疑問は生じます。
この事件は(ヌ)つまり債務名義に基づく強制競売です。
債権者がどんな人で、所有者はどんな債務があったのかは分かりませんが、いずれにせよ「売らない」と定められた竹富島内の物件が強制的に競売されたわけです。
不動産競売では、農地などの法令上の制限のない土地であれば原則として誰でも入札可能です。
この事実は、その良し悪しは別にして、竹富島憲章の「売らない」に反するものであることは明らかです。
島外の人はおろか、いわゆる反社会勢力だって買受けることはできてしまいます。
なるほど、きな臭くなってまいりました。
ということは、何がなんでも島内の人間が落札しなくてはならないということになるわけです。
ここからは推測になりますが、この物件には共有者がいましたから、おそらくその人が高額の入札をして取り戻す、という流れになるのではないかと思います。
なぜなら、不動産競売において、買受額から債務額を引いた余剰金は債務者に戻るので、債務者と共有者が親戚である場合などには、余剰金については債務者から共有者に渡すといった約束をして高額で入札するという行動ができるからです。
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「売らない」という憲章はポジショントークなのではないか
さらに穿った見方をしてみたいと思います。
竹富島憲章もまた、旧住民たちのポジショントークに過ぎないという批判もありうるのではないかと思いました。
伝統の維持にはコストがかかります。
そのコストを賄うには経営的な目線は当然必要で、観光産業が中心となっている沖縄県では、県外からの「外貨」獲得は不可欠であるはずです。
憲章における「売らない」は、伝統的な街並み保存の意味合いで定めたものかと思いますが、資金の島外流出を防ぐ目的もあると思います。
しかし、経済を閉鎖的にすることが必ずしも島内の経済を豊かにするとは限りません。
おそらく、経済活動のために街並みや文化の保存を犠牲にしないための税制優遇措置であるのだと思いますが、それだけを頼りにしていてはいけないと思います。
保存されなければ残らないものであることは非常に弱い立場になります。
自ら稼ぐ力を持たなければ、逆に「お上」の言うことに従い続けなくてはなりません。
自治を阻むものが、巨大資本だけではなく、公権力であることも珍しいことではありません。
そんなわけで、竹富島の未来、そして全国の地方自治の未来についても考えさせられる事件でした。
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