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事件概要
なんだかややこしい事件です。
とりあえず、事件の経緯を整理します。
主な登場人物は、
- 債務者兼所有者のHさん
- Hさんのお兄さんIさん
- 占有者のAさん
です。
本件土地建物は、平成21年9月にIさんが購入しましたが、このときからずっとAさんが住居として使用していたそうです。
一方、HさんとIさんの兄弟は、その頃からずっと宮崎で暮らしていました。
熊本に土地建物を所有していて、将来はそこに移り住む予定なんだ
ふーん
そんな会話をしていたそうです。
で、実はIさんとAさんはビジネスでも繋がりがありました。
Aさんが代表を務める会社とIさんが専務だった会社はフランチャイズ契約を結んでいました。
この契約に基づいて、Iさんの会社はAさんの会社に技術料の支払い義務を負っていました。
ところが、Iさんの会社が支払いをできなくなってしまった。
そこで、Iさん所有の本件土地建物を、Aさんの会社に譲渡する『代位による代物弁済契約』を結んだのです。
しかし、所有権移転登記はなされず、登記上はIさんの所有のままだったのです。
Aさんは登記さえしてれば、望む通りになったのではないかと思います。
買ったら登記を忘れずに。
そして、平成29年5月、Iさんが亡くなりました。
Iさんの弟であったHさんは、本件建物を相続します。
ここで慌ててAさんは弁護士を通じてHさんに本件建物を譲渡してくれるよう求めます。
なんのことやら分らないHさんは、AさんやIさんの共通の知人である従姉妹に連絡してみるも、応答はありませんでした。
また、Aさんの弁護士からは、譲渡に応じなければ訴訟を提起する、と言われていましたが、待てど暮らせど訴訟はされない。
そこで、Iさんは自ら債権回収会社にお願いして、競売手続きをしてもらった、というのです。
ところが、Aさんとしては、本件土地建物に住み続けたいので、競売されるのはどうも嫌なようで、住宅ローンの残債を肩代わりしてでも、自分の会社か自分の名義にしたいのだそうです。
代位による代物弁済契約書とは
ここで、この事件のキーワードの一つである『代位による代物弁済契約』について解説します。
まずは、『代位による』というところから。
代位とは、法律上の他人の権利を行使すること、です。
例えば、所有者の代わりに司法書士が登記を行う、というのも代位です。
今回の場合、フランチャイズ契約に基づく債務があるのはIさんの会社ですから、Iさんは本来関係ないはずなのですが、Iさんが代わりに支払った、ということですね。
続いて『代物弁済』について。
代物弁済とは、ざっくりと言うとお金の代わりに物で弁済することです。
ちなみに、
- 返済:一部でも返したとき
- 弁済:全てを返したとき
よく似てますが、区別して使うようです。
今回は不動産ですが、宝石や絵画など換金性の高い商品も使われますね。
ということで、代位による代物弁済契約とは、他人の債務を物で代わりに弁済する契約ということです。
こういう風に書くと、代物弁済って、いわゆる『担保』的な使い方ができるような気がしませんか?
実は『代物弁済の予約』という形で契約書に盛り込むことができます。
その際には『仮登記』をします。
仮登記とは、その名の通り『仮の登記』で、『こんな条件が満たされたら本当に登記します』というものです。
代物弁済の予約では『債務不履行』がその条件になりますね。
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なぜ、債務者が望んで競売になったのか?
この事件の珍しいところは、債務者が自ら競売をお願いしたことです。
ですが、これまでの経緯を見てみると、それも不思議ではないな、という印象を抱きます。
債務者兼所有者のHさんからすると、お兄さんが老後のために買っていた遠方の物件を相続したら、突然弁護士から連絡が来て『タダで家を譲れ、応じなければ訴訟だ』と言われたわけです。
それなら、競売してもらった方が、高く売れた場合には自分の懐にもいくらか入ってくるわけで、Hさんには得があるのです。
一方で占有者のAさんですが、この人の会社が持っていた債権がどれくらいなのか、気になるところです。
つまり、もしかするとこの家を競売や任意売却したときの代金よりもかなり安い債権で代物弁済させたのではないか、と考えることだってできるわけです。
だから、競売して、債務を弁済してもらうよりも、今のまま住み続けさせてもらった方が得だ、と。
そんな、色々なドラマを想像させてくれる事件でした。
少なくともこのような陳述があると、買い受けても面倒臭そうだな、と感じて入札を控える人も多そうです。
あるいは、どうしても住みたいAさんに対して高値で売りつける自信のある猛者が買い付けるのかも…。
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